令和7年 施政方針
令和7年第1回双葉町議会定例会が開催されるにあたり、私の所信の一端と町政の基本方針を申し述べ、議員各位並びに町民の皆さんのご理解とご協力を賜りたいと存じます。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故から本日で14年となります。震災により犠牲になられた方々のご冥福を祈り、献花をいただくことができるように今年も双葉町産業交流センターに「東日本大震災追悼献花場」を設けました。
私も献花場に赴いて午後2時46分に黙祷し、震災により失われた尊い命、ふるさと双葉町に戻りたくても戻ることができずに志半ばで亡くなられた方々の御霊に哀悼の誠を捧げてまいります。
さて、3月10日から私の町長としての四期目の任期がスタートしました。
町長就任以来の取り組みと三期目の主な成果を申し上げます。
私は、平成25年3月の町長就任時から「復興」は震災前に戻すということではなく、将来の双葉町のあるべき姿を描くものという揺るぎない信念のもと、全国に避難を強いられている町民の皆さんの想いを胸に、復興に挑戦する双葉町の様々な課題に取り組んでまいりました。
除染や中間貯蔵施設の問題をはじめ、埼玉県加須市からいわき市への役場機能移転、避難所の閉鎖、いわき市での町立学校の再開、復興公営住宅の整備、特定復興再生拠点区域復興再生計画の認定、常磐自動車道常磐双葉インターチェンジの供用開始やJR双葉駅の新駅舎整備など、一刻も早く町民の皆さんが安心して帰還できる環境を整備するための施策を進めてまいりました。
三期目を振り返ると、令和4年6月に長期にわたる避難生活によりご苦労されている町民の皆さんお一人お一人の生活再建と町の復興を第一に掲げた「復興まちづくり計画(第三次)」を策定するとともに、令和4年8月には特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、11年5か月ぶりに原子力被災12市町村では最後となる町への帰還を果たし、双葉町の復興に向けた大きな一歩を踏み出しました。
また、新型コロナウイルス感染症という新たな脅威に立ち向かいながら、診療所の開所やコンビニエンスストアのオープン、第一・第二分団消防屯所の設置、双葉郵便局の再開、えきにし住宅の全戸供用開始、さらには公設商業施設の建設に着手するなど、生活環境の整備に尽力してまいりました。
そして、帰還困難区域の避難指示解除に向けた新たな取組となる「特定帰還居住区域復興再生計画」の認定を受け、帰還意向がある町民の皆さんが帰還できるように一定の道筋をつけることができました。
以上申し上げました成果は、私や町職員だけで成し得たものではありません。町議会や町民の皆さんをはじめ、国や県、人的支援をいただいている自治体、関係団体の皆さんがそれぞれの立場で、双葉町の復興について共に考え、行動していただいた賜物にほかなりません。この場をお借りして改めて皆さんに御礼を申し上げます。
町の復興を加速させるために最も重要なことは、復興の根幹を担う居住人口の増加です。町民の皆さんが安心して帰還できる環境の整備や双葉町に移住される方への支援の強化はもとより、交流・関係人口の拡大が鍵を握ります。令和7年度についても、これまでの成果を踏まえ、居住人口の増加につながる各種施策を展開し、復興への歩みを進めてまいります。
まず、特定帰還居住区域についてであります。
昨年4月、帰還困難区域内の避難指示解除に向けて策定した「特定帰還居住区域復興再生計画」に新たに7行政区を追加した変更計画が認定されました。現在は、区域内の町民の皆さんを対象とした除染の同意取得と解体申請の受付に加え、下長塚・三字行政区の一部区域に係る除染・解体工事が進められております。
国は、将来的に帰還困難区域の全てを避難指示解除し、町の復興・再生に責任をもって取り組むとしていますので、2020年代をかけて、帰還意向のある全町民の早期の帰還実現を目指すとともに、帰還困難区域全域の避難指示解除に向けて粘り強く国に要望してまいります。
次に、駅東地区まちづくり基本構想についてであります。
町の中心部であり、商業を中心に賑わいを形成するエリアとして位置付けている双葉駅東地区において、将来ビジョンとデザイン戦略を示すことで、まちづくりを先導する公共事業や民間開発の指針とすべく「駅前・駅前通りエリア」「旧国道・町民グラウンド周辺エリア」「新山エリア」の3つの戦略的重点エリアを設定し、町の復興部会での議論、町内企業の若手座談会、町内イベントなどによるアンケート調査やご意見をいただきながら、「駅東地区まちづくり基本構想」を策定しました。
今後は、基本構想の具現化に向けて「駅東事業化検討業務」や「次期復興まちづくり計画(第四次)」に反映させ、まちづくりを加速してまいります。
次に、農業の再生についてであります。
令和4年度から町内で営農再開が進み、現在1農家、2法人が約4ヘクタールの農地でブロッコリー等の作付けに取り組んでいます。
これからの営農再開に向けた大きな課題は、「担い手の確保」と「農業の基盤整備」であります。
震災前に町内で農業に従事されていた方々の高齢化が進んでいることや、多くの方が未だ避難生活を継続しているために農業から離れているなど、自ら営農を再開することが困難な状況にあります。
一方で、本町の農業に参入する意向を示している農業法人があることから、地元と農地所有者との調整を進め、本町の営農を担っていだたくことで、農地を有効活用し、収益性の高い作物を生産して出荷に結び付くことができるように進めてまいります。
また、農地の生産性の向上や農作業の省力化は必須であり、地元の意向を踏まえて、農地を大区画化する土地改良事業に取り組んでおります。
10年先を見据え、農地の活用や担い手の選定などの議論が進展するよう、皆さんと一緒に考えることで、営農再開面積の拡大につなげてまいります。
次に、学校の再開・整備についてであります。
3月5日に開催した総合教育会議において、新しい双葉町立こども園・義務教育学校の開園・開校時期を令和10年4月に決定いたしました。平成26年4月に町立学校を再開して以来の大きな転換点となります。
基本構想に掲げた4つの目指す学校像を踏まえ、幼少期から外国語活動を行うことにより、世界の多様な人々との交流を通じたコミュニケーション能力の素地を養うとともに、国際感覚を身に付け、多文化共生を核とした「世界にひとつの双葉の学校」の整備を進めてまいります。
次に、東京電力ホールディングス株式会社に対する要求についてであります。
本年1月に東京電力ホールディングス株式会社の小早川社長が来庁した際に「福島第一原子力発電所の廃炉、原子力損害賠償の完全実施及び復旧・復興への協力に関する要求書」を手渡すとともに、要求事項の実施について強く求めました。
また、廃炉作業については、トラブル等が発生しないように万全を期することはもとより、緊張感を保ち最後まで責任を持って貫徹し、東京電力が作業全体を管理・監督する意識を徹底するように、改めて管理体制の確認や強化を求めました。
原子力損害賠償については、中間指針や同追補等によらず、少なくとも特定復興再生拠点区域が解除された令和4年8月30日までに賠償期間を見直すことや被害実態に即した賠償を確実に行うよう、原子力発電所事故の原因者としての責任を全うすることを求めたほか、双葉町の復旧・復興に向けた取り組みについての協力を強く要求してまいります。
次に、復興・再生に向けた財源の確保や国の関係機関に対する要望活動についてであります。
昨年の12月に『「第2期復興・創生期間」以降の東日本大震災からの復興の基本方針の見直しに向けた課題等』が国の復興推進会議で決定され、第2期復興・創生期間以降5年間の事業規模が、今の5年間を十分に超えることが明示されました。
震災と原発事故という複合災害からの復興を進めるにあたり、中長期にわたる財源の確保が不可欠であります。さらに、物価高騰の影響により、資材調達や人員確保も難航しており、先行して避難指示が解除された自治体と比べ、インフラや施設の整備に係る費用が増大しています。今後も県や関係自治体と連携し、復興財源の確保について、国や関係機関に強く要望するとともに、高速道路の無料化措置と医療費等の減免措置につきましても、国に強く働きかけてまいります。
次に、中間貯蔵施設および除去土壌等の県外最終処分についてであります。
中間貯蔵施設への除去土壌等の搬入については、今年で10年の節目を迎えました。
現在は、特定復興再生拠点区域及び特定帰還居住区域で発生した除去土壌等が搬入されており、平成27年3月の搬入開始からの累計搬入量は、本年1月末時点で約1,406万立方メートルとなります。
私は、県外最終処分や再生利用への理解が現状では十分に広まっていないことに危機感を抱いており、環境省に対して、中間貯蔵施設の安全かつ確実な維持管理はもちろんのこと、2045年3月までの県外最終処分の実現と実現に向けた国民全体の理解を速やかに醸成するよう、引き続き強く求めてまいります。
次に、双葉町復興まちづくり計画についてであります。
復興まちづくり計画(第三次)は令和8年度が最終年度になることから、令和7年度は各種事業の実施状況を検証するとともに、次期復興まちづくり計画(第四次)の策定に向けた課題の検討に着手してまいります。
引き続き、現計画で掲げている基本施策の5つの分野を集中的に取り組むとともに、令和7年度を復興の具現化を進める1年として、重点的に進めていく施策について申し上げます。
まず、「1. 生活環境」についてであります。
住宅の整備・支援については、良好な住宅地を形成するエリアの具現化を目指し、双葉駅西側に「住む拠点」として整備を進めてきた町営住宅全86戸が完成しました。帰還された町民の方や移住された方など約100名が入居されております。今後は、町営住宅の西側での造成工事等を進め、住宅の分譲地などとしての利活用を進めてまいります。
また、双葉町住宅再建支援事業として、町内における住宅の取得・修繕等に係る費用を県の上乗せ支援と併せて、新築住宅の取得で上限800万円、中古住宅の取得または修繕等で上限300万円を補助しております。併せて長期にわたって維持管理できていなかった住宅の清掃費や帰還に伴う移転費用の一部を補助する制度を継続することで、引き続き、町民の皆さんの帰還意識の醸成に努めてまいります。
昨年11月に歴史ある旧三宮堂田中医院診療所に、「移住定住相談センター」を開設しました。双葉町に移住を希望する方が町での暮らしをより具体的にイメージできるように、移住ニーズに応じた情報提供や移住後の生活相談などの定住支援を行います。町の暮らしを体験いただける「お試し住宅」との相乗効果により、双葉町への移住・定住をさらに促進してまいります。
生活関連施設の整備については、昨年3月におよそ13年ぶりとなる郵便局の営業が再開しました。役場庁舎北側に建設中の公設商業施設は、スーパーマーケットの入居が決定しており、令和7年夏頃の開業を目指して建物の本体工事等に着手しているところです。双葉町体育館・公民館跡地に建設予定の公設商業施設は、飲食店3店舗の出店が決定しており、先日、出店者との意見交換会を開催しました。今月中に安全祈願祭が行われ、令和7年度中の完成を目指して整備を進めてまいります。駅前における賑わい創出はもとより、町内に居住する皆さんや働く方々のさらなる生活環境の向上に努めてまいります。
公共インフラの整備・復旧については、復興シンボル軸として町の各拠点を有機的に結びつける重要な役割を果たす県道井手長塚線のこ線橋が令和7年度中に完成する予定です。
そのほか、町道や橋梁等の点検・修繕等を継続的に実施することで、今後も適正なインフラ整備に努めるとともに、特定帰還居住区域の避難指示解除も見据えた下水道施設の復旧や維持・修繕なども進めてまいります。
防犯・防火・防災体制の強化については、令和5年から防災行政無線の運用を再開しており、屋外スピーカーによる周知のみならず、町内に居住されている方や事業者等に対して、戸別受信機の貸出を進めることで、災害時の緊急情報や防災情報をより確実に伝えることができるように努めてまいります。
また、町消防団第一分団及び第二分団に新しい消防ポンプ自動車を配備し、旧車両と比べ資機材を豊富に積載でき、消火栓に接続することなく迅速な消火活動を開始できるようになりました。
さらには、双葉町内一円の防犯・防災はもとより、帰還困難区域を含め不法侵入等の被害が生じているため、警察機関との連携や365日24時間体制でパトロールを継続することで、防犯体制を強化してまいります。
次に「2. 産業・エネルギー」についてであります。
商工業の発展については、「働く拠点」として整備を進めてきた中野地区復興産業拠点では、現在24の企業と立地協定を締結し、18社が操業を開始しております。昨年8月には、大和ライフネクスト株式会社が整備するカンファレンスホテルの建設が始まり、今後は株式会社ビーエイブルによる廃炉ロボット等の研究開発拠点の整備などが見込まれています。引き続き、中野地区復興産業拠点の基盤整備と企業誘致を進めてまいります。
また、操業奨励金の拡充や雇用促進奨励金の要件緩和などにより、新たな企業の進出を促すとともに、既存事業者の町内における事業再開をさらに後押ししてまいります。
双葉駅周辺に目を向けると、チャレンジショップ機能やコワーキングスペースを民間主導で整備した施設「FUTAHOME(ふたほめ)」が先月オープンしました。
旧東邦銀行双葉支店の利活用については、スモールオフィスやコワーキングスペースなど、起業家向けの設備を備えた産業創出・交流の場として整備を進めております。様々な拠点による相乗効果を最大限に生かし、新たな事業の創出や地域活動の促進につなげてまいります。
「営農再開」については、令和7年度以降、営農再開面積を拡大していくため、農業水利施設の機能復旧を進めるとともに、担い手の省力化と効率化を図るための農業基盤整備事業等をさらに推進してまいります。
中田地区における養液栽培施設の整備については、先月、プロポーザルによる施設の貸付候補者を選定しました。令和7年度は、建物の実施設計や土地の造成に着手する予定であります。
そのほか、コメの出荷制限解除を見据えた試験栽培の継続など、引き続き、農業の再興に向けた取り組みを進めてまいります。
次に「3. 医療・健康・福祉・介護」についてであります。
健康管理体制の確保等については、昨年3月に「健康ふたば21計画(第二次)」を策定し、「町民一人一人が居住している地域で希望や生きがいをもって日々を過ごすための基盤となる健康を大切にできる」ことを基本目標に掲げ、具体的な推進項目とともに数値目標を定めて取り組んでいるところです。
総合健診の実施により、町民の皆さんの健康状況をきめ細かく把握し、健診結果説明会等による事後フォローアップを通じて、生活習慣病などの早期発見・早期治療はもとより、数値目標の達成に向けて尽力してまいります。
また、各種感染症に係る予防接種を継続するとともに、令和7年度から帯状疱疹ワクチンを追加して実施してまいります。
福祉・介護体制の構築については、双葉駅西地区に、通所及び訪問介護サービスや地域包括支援センターによる相談、さらには誰もが気軽に集い必要なサービスを受けることができる複合的福祉サービス拠点の整備を進めているところです。令和9年度の開所を目指し、令和7年度は、施設の実施設計や建設工事に着手してまいります。
次に「4. 教育・子育て・歴史・伝統・文化」についてであります。
教育環境の整備・充実については、町内での学校再開に向け、令和7年度は学校校舎等の基本設計・実施設計や中学校旧校舎の解体、教育カリキュラムの策定などに着手してまいります。
また、国際社会や地域社会で活躍できる人材の育成や今後の双葉町を担う子供たちの育成を図るため、双葉中学校の生徒を対象とした生徒海外派遣事業を引き続き実施してまいります。
さらには、町民の皆さんや町内就業者などを対象とした生きがいや趣味づくりを通して教養を高めることを目的とした生涯学習講座を新たに展開してまいります。
子育て環境の充実については、少子化に対処するための施策や子ども・若者の健やかな成長に資する社会環境の整備などの施策を盛り込んだ「双葉町こども計画」を令和6年度中に策定してまいります。
また、昨今の物価高騰による子育て世帯への負担軽減を図るため、国から交付を受けた地方創生臨時交付金を活用し、こども手当受給世帯に対して給付金を支給するとともに、新たに移住された方を対象とした保育料の実質無償化など、子育て世帯への支援を拡充してまいります。
歴史・伝統・文化については、神楽や相馬流れ山踊りなどの民俗芸能を伝承・保存するための補助制度を継続するとともに、「国指定史跡 清戸廹横穴」の保存・整備のため保存活用計画を策定してまいります。
また、筑波大学の協力を得て文化財のレスキューを継続的に行うとともに、旧役場庁舎の隣接地に文化財等収蔵庫の建設を進め、全国各地で保管していただいている文化財の集約化を図ってまいります。
最後に「5. きずな・結びつき」についてであります。
交流機会の確保については、町民の皆さんにふたばアプリの利活用を啓発するとともに、交流会等の開催による町民相互のコミュニティの形成を図ってまいります。
また、行政区が主体となって活動する除草作業に対して、報奨金を交付することで、町内環境の整備を進めるとともに、ふるさととの結びつきを創出してまいります。
さらには、令和7年度中に完成予定である福島県復興祈念公園内に東日本大震災により双葉町内で亡くなられた方を追悼するための慰霊碑を町が建立することで、中野地区における被災の伝承及び復興を祈念するエリアとしての機能を充実させてまいります。
交流・関係人口の創出については、双葉駅前のコミュニティセンターは、震災前の姿をとどめる数少ない施設であることから、町の歴史や記憶を感じていただくことができるように既存建物を生かしつつ、「駅東地区まちづくり基本構想」に合致した施設となるように改修を進めてまいります。
また、中野地区の復興祈念公園の隣接地に運動公園など屋外空間を活かしたアクティビティが楽しめる施設の整備を計画しており、交流人口の拡大に向けた動きを加速させ、町の復興に寄与するものと期待しております。
情報提供・広聴の充実化については、町内居住の開始に伴い、町公式ホームページにアクセスする目的が変化していることやスマートフォンからのアクセスが増加しているなど、環境の変化に対応するため、町公式ホームページのリニューアルを検討してまいります。
以上、現在までの復興に向けた取り組みと成果、令和7年度の町政に臨む私の所信の一端と基本方針を述べましたが、町政運営にあたりましては、引き続き、議会や町民の皆さんと意見を交わしながら、双葉町復興まちづくり計画で示された具体的な施策の実現に向けて、職員一同全力で取り組んでまいりますので、議員各位並びに町民の皆さんの一層のご理解とご協力を賜りますようお願いいたします。
以上申し述べまして、令和7年度における施政の方針といたします。
>>施政方針・行政報告の様子は「双葉町公式YouTubeチャンネル」で配信しています。